テクミラホールディングス株式会社 20TH ANNIVERSARY SITE

第3章 混沌と模索 内井の視点

SPEAKER

内井 大輔
ネオス株式会社
取締役 専務執行役員 兼 サービスソリューションカンパニー プレジデント

Interview

2010年代前半、ネオスはまさに混沌の中にありました。国内でスマートフォンの普及が本格化し、市場が変わりゆく中でこれまでの“正解”が通用しなくなり、技術的にも事業的にも新たなルールのもとで再構築していく必要がありました。
一方で、通信キャリアをはじめ、企業各社がスマホ対応に本格的に取り組み始めると、ネオスにも多数の開発案件が舞い込むようになります。モバイル領域での実績を評価されてのことではありましたが、実際には“スマホ向けの開発”に関する社内の知見やスキルはまだ手探り状態。受注自体は好調でも、その裏側では、技術も体制も十分とは言えない中で、なんとか形にしていくための綱渡りのような日々が続いていました。

当時の我々は、高いパフォーマンスを持ったメンバーが集まっていましたが、体制は決して大きくありませんでした。少数精鋭とも言えますが、常に手一杯の状態だったことをよく覚えています。主に製薬会社向けの医療系サイト開発や、保険会社のサービスWeb開発などを手がけ、大手航空会社のプロジェクトに参画したのもこの頃でした。業種も内容も多岐にわたる案件を並行して対応していましたが、いずれも“初めて尽くし”の連続。正直なところ、実践しながら模索していくしかない状況であり、現場の気合と根性で回していた部分も多かったと思います。
こうした中、次第にプロジェクトの規模も大きくなり、これまでの“職人技”の延長ではどうにもならない状況に直面するようになります。大規模な開発に対応できるほどのリソースも組織としてのルールもまだ整っておらず、進行するうちに仕様変更や認識の齟齬、コミュニケーションのズレが蓄積し、最終的に炎上――。そんな事態が立て続けに発生し、経営にも影響が出始めるようになっていきました。

この混乱期において、我々が直面していた最大の課題が「プロジェクトマネジメント」でした。会社の規模が拡大していく中で、クライアントとの合意形成、仕様の精緻化、進捗管理、トラブル時の対応、そのすべてを組織として支える仕組みとプロセスが欠けていたのです。各現場は必死に対応していたものの、体系だったナレッジが蓄積されておらず、似たようなミスが繰り返されてしまう。何度も火消しに追われる中で議論を重ねながら着手したのが、プロジェクトマネジメントにおける「ガイドライン」の整備でした。推進チームを組織し、これまでの炎上事例における反省と改善点を徹底的に洗い出した上で、プロジェクトの進め方や設計フロー、品質管理、トラブルシューティングなどを体系的にまとめたガイドラインを全社に展開。併せて、人材の育成やチーム運営のあり方、情報共有の仕組みなども見直しました。こうした取り組みを通じて、属人化を防ぐとともに、標準化されたプロジェクト運営が全社的に可能となったのです。

また、ネオスの受託開発は、企画力と技術・開発力を両立させた“ハイブリッド”な対応を強みとしています。SIerのように要件通りに開発するだけではなく、クライアントと一緒にサービスを企画・共創しながら、それを具現化するシステム設計や実装、運用までを一貫して担う――。今でこそ当たり前となったこのスタイルも、当時の混沌とした市場のなか手探りで磨いてきたものです。
スマホ向けサービスのニーズが拡大する中、市場には大小さまざまな開発ベンダーが次々と参入し、競争は激しさを増していきました。我々も、ただ言われたものを開発するだけでは埋もれてしまう。ネオスならではの価値として何が提供できるのか、どのようにクライアントにその価値を伝えられるか、ひたすら模索しました。そうした中、クライアントの要望も単なるWebやアプリの開発だけにとどまらず、「新しいサービスを立ち上げたい」「ユーザーとの接点をどう作るべきか」といった、より上流のレイヤーに及ぶものが増えていきました。その際、我々が手がけていた自社のモバイルサービス事業やコンテンツ運営の知見が大いに活きたのです。自社で企画から運用まで回してきた実績があったからこそ、単なる受託開発にとどまらず、企画フェーズから踏み込んだ提案や伴走ができた。そしてそれが、競合との差別化にもつながっていったのです。
この“つくるだけでなく、ともに考える”という姿勢は、ヒアリングを重ね、課題の本質を探り、時には仮説を立てて何度も方向性を練り直しながら、ようやく形にしていく…そんな粘りと試行錯誤を繰り返しながら確立していきました。

この2010年代半ばの時期は、ネオスにとってまさに「混沌と模索」の時期でありながら、結果として、組織としての地力を培う大きな学びの機会にもなりました。何度も失敗してやり直しながら、それでも前に進もうとあがき続けたからこそ、現在のプロジェクト推進力やリスクマネジメント体制があるのだと改めて実感しています。