SPEAKER
- 貝谷 實榮
- 株式会社Retool
 代表取締役
Interview
2018年、私は株式会社Retoolを立ち上げました。それまで複数のベンチャー企業でCOOや執行役員を務め、リソース最適化に特化したコンサルティングやサービスを提供してきましたが、どの企業でも直面する課題は同じ、「限られたリソースの中でいかに生産性を最大化するか」ということです。
                            そのためには、社員一人ひとりのタスクや行動を可視化し、「本当に必要な業務」と「そうでない業務」を仕分ける必要があります。100人いれば100通りの仕分けを行い、タスクスケジュールを再構築することで生産性を改善する。そこで、これまでのキャリアで培った業務改善ノウハウを活かすことで、より効率的かつ企業のニーズに即した仕組みを提供できるのではないか――そうした思いから、マネジメントDXサービス「Retool」の開発に取り組み、法人化に至りました。
 
                        現状の「Retool」は、業務の偏在や非効率といった組織課題を可視化し、改善の手がかりを提示する仕組みとして提供しています。将来的には、可視化した内容をさらに分析し、タスクの再整理や最適配分まで提案するプロセスのAI化も視野に入れています。
                            私は「人間がAIに劣っている」とは考えていません。ただ、人の評価や判断は感情や経験に左右されやすく、無意識のうちに好き嫌いが入り込みます。特に日本企業ではその傾向が顕著です。海外では、与えられたタスクをこなせるかどうかが評価の基準であり、感情的なバイアスが入り込む余地はほとんどありません。一方、終身雇用制度がある日本では、必ずしも成果が全てではなく、管理者の感覚に左右されて評価や役割が決まる傾向があります。この文化を否定はしませんが、定量的なデータに基づき本来の能力や成果に見合った評価指針を持つことは、生産性の改善にもつながり、ひいてはハラスメント抑止にも寄与すると考えています。
また昨今は、バブル崩壊やリーマンショックを経て、赤字でなくとも早期にリストラを行う企業が増えています。そうした際に、年齢など一律の基準で判断すると、将来の成長に必要な人材を失うリスクがあります。本来は残すべき人とそうでない人を客観的に見極める必要があり、そのためにも平時から業務や成果を可視化しておくというのも一つの指標になるでしょう。もちろんリストラを推奨するわけではありませんが、避けられない場合の備えとして、また、なによりそうした状況を作らないためにも、黒字期から業務管理を徹底し、生産性を高めておくべきだと考えています。
こうした業務効率化の取り組みを進める一方で、人材採用領域においてもAIやテクノロジーを駆使したサービス展開を進めています。
                            創業初期の当社は、Retoolの開発投資による累損が膨らむなど厳しい局面が続いていました。そうした中、エージェント出身のメンバーが中心となって人材紹介業を立ち上げ、少しずつ売上を築いてくれたおかげで今があります。あまり知られていませんが、人材紹介の現場は想像以上に過酷です。求職者は現状への不満から“完璧な職場”を求めますが、現実にはほとんど存在しません。そうしたなかで、希望条件を深掘りし、「譲れない条件」を見極め、時には説得し、市場価格と照らし合わせた上で企業を紹介する。さらにその過程では、スカウト、面談、レジュメ添削、条件交渉など膨大な作業が必要です。
                            「社員たちはこれほどの負担を抱えて会社を支えてくれている。もっと楽にできないか」――そうした想いと採用現場の課題から生まれたのが、AIスカウトサービス「HABUKU」です。「HABUKU」は、開発段階から徹底した効率化と技術的工夫を重ねることで低コスト提供を実現し、さらに独自に蓄積してきた企業ランクや学歴などをスコア化したデータベースを活用することで、後発では容易に再現できないコストパフォーマンスを実現しています。昨今は競合サービスが増えつつありますが、この技術力と先行者メリットが大きな差別化要因となっており、業界問わず順調に導入を拡大しています。
私たちが一貫して目指すのは、「効率を追求して、仕事を楽しくする」こと。そのために、AI技術やデータベースを活用し、“人にまつわるあらゆる事柄”を可視化・簡素化・システム化することです。「HABUKU」により母集団形成やアプローチを効率化して採用コストを削減する、そして削減できたコストを従業員の待遇改善に充てれば採用力が向上し、働く人も豊かになれる、さらに「Retool」による適正なマネジメントで高い成果を生み出し、企業としての成長を促す。この好循環こそが、私たちが描く生産性向上の理想像です。
                            表面的な効率化ではなく、組織が抱える構造的課題にテクノロジーで挑み、日本の「働く現場」の生産性向上に貢献してまいります。
 
                        