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第9章 新事業への挑戦 安藤の視点

SPEAKER

安藤 嘉規
ネオス株式会社
サービス開発本部 シニアマネージャー

Interview

「8WayAudio」は、next Soundが特許を持つ『8Way Reflection』を基に、従来のステレオ音源から立体的な音響空間をリアルタイムに再現するものです。微細な音のズレを生み出すことで、リスナーをぐるりと包み込むかのような立体的な音を再構成する、まさに次世代の音楽体験をもたらす技術です。

開発の第一歩は、next Sound代表の飛澤氏が生み出した『8Way Reflection』プラグインを、PC上で単体動作するスタンドアロンソフトウェアにすることでした。しかし、単一のプラグインでは十分な立体音響表現が難しく、複数の『8Way Reflection』を組み合わせたシステムとして一から作り直す必要がありました。加えて、音をどの程度立体的に表現するかといったプリセットも作っていく必要があり、約2年にわたる試行錯誤の末に、ようやく形が見えてきたのです。

次なる挑戦は、スマートフォンへの実装を見据えたAndroid版への移植でした。Androidのオープンソースプロジェクト(AOSP)を活用し、Google Pixel端末をベースにOSの仕様と格闘しながらの実装作業。これまで多様なアプリやサービス開発を手掛けてきましたが、OSレベルでの深い調整を伴う開発は未知の領域でした。Android 13以降に搭載された空間オーディオ機能も活用しつつ、7〜8カ月の開発・調整を経て何とか動作させることに成功。ドコモ様やシャープ様へのデモンストレーションで高評価をいただき、チーム一同安堵したことを覚えています。
商用化に向けたスマートフォンへの実装については、既にAndroidでテストしていたこともありスムーズに進みましたが、ひとつ大きな課題がありました。それが消費電力の最適化です。高品質な空間オーディオを維持しながら、いかにバッテリー消費を抑えるか――処理方法や計算の効率化を追求し、実用レベルまで徹底的にチューニングしました。一般的に、省電力対策は性能の劣化を招きやすいものですが、細部にわたり調整を重ねた結果、聴感上ほとんど音質劣化を感じさせないレベルでの動作と省エネを両立させることに成功しました。

ネオスはこれまで、ガラケーからスマートフォン、クラウド、SaaS、AIまで、多彩な領域でサービスとソリューションを生み出し、膨大な技術資産を積み上げてきました。この豊富な経験と技術の蓄積こそが、今回の複雑かつ高度な「8Way Audio」開発を支えた大きな土台となっています。
社会には優れた技術資産が数多く存在しますが、それらを活かしきるには、全体を見通すグランドデザインが欠かせません。つまり、個別技術を単に使うだけでなく、それらをどう組み合わせ、最適に設計し、価値を最大化するか――今回の「8Way Audio」は、まさにその考え方を体現したプロジェクトと言えます。私たちは今後も、このアプローチでデジタル領域の最前線を切り拓き、新たな価値創造に挑み続けます。