創業期から積み重ねてきた “健康×IT”の歩み
2020年代、コロナ禍を契機に「働き方」や「暮らし方」を見直す機運が一気に高まった。リモートワークの定着、ワークライフバランスへの関心の高まり、そして個人のウェルビーイングを重視する価値観の浸透——。こうした社会意識の変化の中で、「健康」は企業・個人を問わず、これまで以上に重要なテーマとして注目されるようになった。
経済活動の中心に「人」がいる限り、ヘルスケアの取り組みは社会にとって不可欠な領域であり続ける。一方で、ITの活用が本格化したのは比較的最近であり、2010年代後半以降、政府主導のもとでデータの利活用やICT化が加速したのが実情だ。健康をめぐる社会的関心が高まる以前から、ネオスではいち早くその重要性に着目し、ヘルスケア領域におけるソリューション開発に取り組んできた。
たとえば、2008年のマザーズ上場当時には、東京海上日動メディカルサービスと協業し、特定保健指導を支援するサービス「健康デザインプログラム」を開発・運営。ユーザーの健康診断結果をもとに、保健師や管理栄養士が生活習慣の改善をサポートし、Webを活用したレポートや問診による双方向のやり取りを実現した。また、KDDIとのヘルスケア分野における提携のもと、個人の健康管理やダイエットを支援するサービス「KaradaManager(カラダマネージャー)」を開発し、共同事業として展開。以降も製薬会社や保険会社をはじめ、さまざまな企業と連携しながら、ヘルスケア関連サービスやソリューションの開発を継続的に推進している。

2013年頃には政府が「健康経営」の推進を打ち出し、企業における従業員の健康管理が経営課題として明確に位置づけられると、社会的にも健康やウェルビーイングといった概念への注目が高まっていくこととなる。
ちょうど同年、ネオスは歩数計アプリ「RenoBody(リノボディ)」を開発し、自社事業としてヘルスケアサービスの提供を開始。歩数データをベースにカロリー管理やAIによるアドバイス、仲間とのコミュニティ機能などを通じて行動変容を促す設計を採用した。しかし、市場には類似アプリが急増。歩数に応じてWAONポイントが貯まるインセンティブを導入するなど差別化を図ったが、ユーザー数の伸び悩みが続いた。
転機となったのは2017年、ある企業が社内のウォーキングイベントで「RenoBody」を活用した事例をきっかけに、営業戦略をBtoCからBtoBへと転換。企業の総務部門や健康保険組合向けに、“健康経営支援ソリューション”としての提案を強化した。これが功を奏し、利用者数は順調に拡大。経済産業省による「健康経営優良法人認定制度」の本格化も追い風となり、2025年現在では700団体以上が「RenoBody」を導入している。

テクノロジーで切り拓く次世代のヘルスケア
ヘルスケア領域の中でも、医療におけるIT導入は、人命に直結する特性や個人情報保護の観点などから、これまで慎重な姿勢が求められてきた。しかし、コロナ禍を経て社会全体でDXが加速する中、電子カルテの活用やオンライン診療など、医療領域におけるIT活用も着実に進展している。
こうした動きを受け、ネオスでは2022年、医療・介護事業者の業務効率化や患者との新たな接点創出を目的とした総合DXプラットフォーム「KarteConnect(カルテコネクト)」を開発・提供を開始。保健所での感染症や衛生管理、病院・クリニックでのオンライン予約やデータ連携など、これまでDXの対象外とされてきた領域にも踏み込み、現場の変革を支援している。
たとえば、京都市保健所では新型コロナや結核などの感染症管理業務や、食中毒対応などの食品衛生管理業務の効率化を目的として導入。また、京都大学医学部附属病院が参画する戦略的イノベーション創造プログラムにも協力するなど、先進的な取り組みを積極的に展開している。さらに、300名以上の医療従事者が在籍する「つるかめクリニック」では、「KarteConnect」の導入により、医師のシフト管理や電子カルテとの連携、患者予約のオンライン化などを実現。これにより診療予約機会の損失が大幅に減少し、院内業務の効率化にも寄与するなど、現場から高い評価を得ている。
こうした取り組みを通じて、現場の多様なニーズを吸い上げながら、柔軟かつ堅牢なデータ基盤を強化し、医療情報を扱うプラットフォームとしてのコアバリューを高めてきた。高齢化が進む日本社会において、医療・介護分野のDXは持続可能な社会インフラの鍵となる。ネオスでは、今後も「KarteConnect」の対応領域を拡大し、包括的なDXプラットフォームとしての地位確立を目指していく。
ヘルスケア事業の加速
2024年1月、コロナ禍を契機に社会全体で健康意識が一層高まる中、グループのヘルスケア事業体制においても本格的な強化に踏み切った。HealthTech事業を手がけるリンクアンドコミュニケーションを連結子会社化し、ネオスが長年にわたり展開してきたウェルネス関連事業を同社へ移管。これに伴い、同社は「Wellmira(ウェルミラ)」と社名を改め、グループのヘルスケア事業会社として再編された。
Wellmiraは、食事・運動・睡眠などのライフログや健康診断のデータをもとに、AIが健康アドバイスを行うアプリ「カロママプラス」をはじめ、PHR(パーソナルヘルスレコード)※を活用した先進的なソリューションを展開してきた企業である。ネオスとは創業当初より、ヘルスケア領域における実証実験やサービス開発で連携してきた経緯があり、再編によって両社の知見や資産が結集された。これにより、AI開発力やクラウド基盤、BtoBネットワークといったグループの技術・経営資源を融合する体制が整い、新たなヘルスケア事業の推進基盤が築かれていった。
※ PHR(Personal Health Record):個人の健康や身体の情報を記録した健康・医療・介護などのデータのこと

再編後、Wellmiraがまず着手したのは、グループ内で個別に展開されていたヘルスケアサービスの整理と組織体制の再構築だった。「RenoBody」と「カロママプラス」を健康経営支援サービスとしてラインアップ化し、職域向けの展開を強化。専門チームの組織により点在していたリソースやノウハウを統合、両サービスの既存顧客に対するクロスアプローチを推進するなどシナジー創出を図り、健康経営支援領域での事業拡大を推進している。
2025年には、ネオスが有するAI技術との連携により、「カロママプラス」における食事画像認識機能の大幅なアップデートを実施。従来の約300メニューから、生成AIと独自データベースの活用によって約15万メニューの認識が可能となり、ユーザー利便性が劇的に向上した。さらに、「カロママプラス」の機能を外販用にコンポーネント化し、企業の新規サービス開発に活用できる「コンポーネントソリューション」として提供を開始。開発コストや期間を大幅に削減できるという利点から、大手小売業者やデバイスメーカーなど業界を問わず導入が進んでおり、ソリューションビジネスとしての広がりも見せている。
また、国家的にも推進されているPHRの利活用に呼応し、大阪・関西万博への参画も実現。大阪ヘルスケアパビリオン内の(株)セブン-イレブン・ジャパンが運営する「パーソナルフードスタンド」では、独自開発のパーソナルアドバイスAIを提供したほか、健康レシピの提供にも協力し、オフィシャルパートナーとして参画。さらに経済産業省の実証事業者として、PHRとAI、デバイスを組み合わせたユニークなユースケースを展示するなど、先進的な取り組みを進めている。
医療現場におけるPHRの本格活用に向けては、データの標準化や運用負荷など、依然として多くの課題が残る。しかし、WellmiraはPHR事業のパイオニアとしてその壁に挑み、社会に必要とされる仕組みをいち早く実装していく構えだ。
そして今、Wellmiraだけでなくネオスをはじめとしたグループ各社がそれぞれの強みを活かし、データやAIといったテクノロジーを統合した次世代ヘルスケアの実現に向けて動き出している。個人の健康と企業・社会の持続可能性の両立をめざし、グループ一体となって新たな価値創出への挑戦は続いていく。
