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NODE ep.7 2022-2024

第7章 AIの波

2022年11月、米国OpenAIが発表した対話型AI「ChatGPT」。その登場は、まさに世界を一夜にして変えるものでした。ネオスがAIに注目したのは2015年前後。ディープラーニングの登場によりAIに新しい変革期が訪れていた頃でした。以降、研究開発とサービス展開を続けてきたネオスはその革新性をいち早く見抜き、業界に先駆けて自社サービスとの連携を実現。長きにわたり模索してきたAI事業が、ChatGPTという起爆剤によって一気に動き出したのです。

NODE ep.7 第7章 AIの波

ChatGPTの衝撃

2022年11月、時代を動かすテクノロジーが世に放たれた。生成AI「ChatGPT」の登場である。
まるで人間と会話していると錯覚させるほどの自然でリアルタイムな応答もさることながら、話し言葉のように指示(プロンプト)をチャットに打ち込むだけという、誰もが使える簡便さから、AIがもたらす価値を社会に広く認識させた。例えば、ユーザーが”人材採用のためのコピーを400文字程度で書いてほしい。”と依頼すれば、ChatGPTは400文字の原稿をそれなりの品質で生成する。この間10秒ほどだ。もちろん複数の言語にも対応しており、日本語に対して英語で返答するといったことも可能である。プログラミング、契約文言、数式の読解、論文執筆まで、生成対応範囲も広く、より細かなプロンプトを提供すればブラッシュアップもできる。これまで人間にしか対応出来ないとされてきたものが、生成AIによって処理される未来が顕在化したのだ。
AIをここまで劇的に進化させたのは、LLM=大規模言語モデルと呼ばれる手法だった。これまでの歴史において、AIにはいくつかのブームがある。第1次AIブームとされるのは、1950年代に発生した「推論・探索の時代」と呼ばれるものである。当時のAIはトイ・プロブレムと呼ばれる簡単なパズルや迷路のような問題を解くレベルのものであった。第2次AIブームは1980年代。コンピュータの高性能化が進み、各国でAIの研究開発が活性化した。しかし劇的な進展には至らず再び冬の時代となる。第3次AIブームは2000年代以降、コンピュータの演算処理能力の向上や、スーパーコンピュータの普及、インターネットの発達や通信高速化などにより、機械学習が大きく進化。ここで、AIプログラムに人間の脳の仕組みをシミュレートさせるニューラルネットワークという考え方が構築された。ディープラーニングと呼ばれるこの概念により、画像認識、自然言語処理などが可能となり、さまざまなサービスへと展開が始まった。この技術を基盤とし、世界中のデータを学習したAIとして生まれたのが、「ChatGPT」である。

「OfficeBot」とChatGPT

「これは、別次元のAIです!」。ChatGPTのリリースを知った社内の技術者が興奮気味に池田に報告した。長年AI分野に携わってきた事業関係者は、実際に使ってみてその意味をすぐに理解した。同時に、自社開発のAIでは太刀打ちできないことも悟っていた。これまで費やしてきたAI技術開発の投資が全て吹っ飛ぶかもしれない――。しかし、池田はここに活路があると確信し、長きにわたり続けてきたAI事業の舵を大きく切ることを決断する。

AI分野における我々の歩みは、2010年代前半にまで遡る。当時はスマホとSNSの普及が一気に進み、テキストコミュニケーションが拡大するなか、ネオスは「SMART Message」という法人向けチャットアプリの開発に全力を注いでいた。LINEの勢いを目の当たりにし、法人向けのビジネスチャット市場なら先駆けになれると踏んだのだ。大手企業からの引き合いもあり、「これならいける」と思える時期もあった。しかし、最終的に話が流れるなど風向きは厳しく、市場は瞬く間にレッドオーシャンと化す。
事業を継続するかの決断を迫られるなか、ネオスが選んだのはAIチャットボット事業へのシフトであった。「BOTであれば、LINEやメッセンジャーなど他社のプラットフォームと連携できる」――チャットサービスの急速な普及を逆手に取り、新たな体験価値をこの領域で提供しようと考えたのだ。スマメの営業を通じて顧客ニーズは掴んでおり、販売ルートも着実に築かれている。あとはAIという技術をどう組み込んでいくか。そこで、業務改善ソリューションとしてのチャットボットに注目した。社内の規定やオペレーションなどの問い合わせに答えてくれる役割をAI(BOT)が担うことで、業務課題の解決に役立つと考えたのだ。従来の「人と人をつなぐチャット」から、「ユーザーと情報をつなぐチャット」へ。新たな価値創出に向けて、基盤となるAIエンジンの研究開発が始まった。

当時のチャットボットサービスは、ユーザーとの対話シナリオを作成し、それをAIに学習させるといった手法が一般的であった。しかし、この方法はクライアント側においてもシナリオ作成や導入後の運用といった専門的知見や多大なリソースが必要とされる。そこでネオスでは、社内文書や問い合わせ履歴などの既存データを投入するだけで、AIが自動でシナリオを作成・学習する独自エンジンを開発し、現在のAIチャットボットサービス「OfficeBot」の原型を2016年にリリースした。導入・運用に手間のかからない“即戦力BOT”として売り込みをかけたのだ。だが、当時のAI市場はまだ黎明期。知見のあるクライアントはその優位性を評価してくれたが、AIの必要性そのものを問われることも多く、導入まで至るケースはわずかであった。さらに厄介だったのは「AI」という言葉が独り歩きし、「なんでもできる魔法のツール」として過剰な期待を背負ってしまったことだ。こちらが実現可能な範囲を丁寧に説明しても、「だったら、これもできるんじゃないか」と次々に高度な要件を求められ、やむなく断念せざるを得ない案件も多かった。粘り強く営業をかけ、広告宣伝を始めさまざまな手を打ったが、売上が伸び悩む時期が続く。いくら優れた技術があっても、波に乗れなければ前には進めない。そう痛感しながらも、AIの時代は必ず来ると信じて事業の歩みは止めなかった。

そこにやってきたChatGPTの台頭。そのクオリティを目の当たりにした時、池田は驚愕すると同時にすぐアクションを起こす必要があると判断した。この波を逃すわけにはいかない。OfficeBotが強みとしてきたのは、企業ごとの情報資産――社内文書や規定、業務マニュアルなど――をAIに学習させる技術である。そこにChatGPTのデータ分析と対話力をかけ合わせれば、理想的なAIアシスタントが実現できる。データのインプットは自社AI、アウトプットはChatGPT。この構造が描けた瞬間、“新たなOfficeBot”の輪郭が見えた。すぐさま体制を整え、急ピッチで開発を進めた。この初動が実り、ChatGPTの登場から約半年後の2023年3月には、GPT連携による新生OfficeBotのリリースに至る。データの活用や回答精度は飛躍的に向上し、以降も新たなGPTモデルがリリースされる度にいち早くアップデート。顧客ニーズに応じてセキュリティ機能を強化し、さらにはMicrosoft Azure などの外部サービスとの連携も加速させ、新時代のAIがもたらす大きな波に乗ることに成功した。
AI事業に活路をもたらしたのは、ChatGPTだった。だが、その波にいち早く乗れたのは、それまで積み上げてきた知見や技術、試行錯誤があったからだ。そして“技術をどう届けるか”にこそ、未来はある。そのことを実感したネオスは、早速次のアクションに踏み込んでいった。

AIの展望

生成AIは破竹の勢いであらゆる分野に展開された。動画、イラスト、文章、契約書、アプリ開発、プログラミング、スケジュール管理、議事録など、枚挙にいとまがない。当然ながら、AIを活用したサービス開発のニーズも急速に多様化していく。次第に、OfficeBotのようなパッケージ型サービスだけでは対応しきれない要望も出てくるようになった。そこでネオスが次に打ち出したのが、AIサービス構築フレームワーク「AIdea Suite」である。
OfficeBotと同様に、セキュアな環境下でChatGPTを活用できる点を基盤としながらも、その真価は“柔軟さ”にあった。Aidea Suiteは企業個別のニーズに対応したカスタマイズに加え、用途に応じたプロンプトを自在に設定できる。これにより、対話形式の問い合わせ対応はもちろん、顧客データをもとに最適な提案を行うセールスアバターや、議事録などの資料から商品企画案を生成するAIアシスタントといった、より踏み込んだビジネス活用が可能になったのだ。こうして、問い合わせ対応や業務効率化といった汎用的なAI活用ニーズにはOfficeBotで対応する一方、高度で個別性の高いニーズにはAIdea Suiteを展開するという、サービスとソリューションの2軸でAI事業を推進する体制を確立。実際に、OfficeBotをAI活用の入り口として、より深掘りした活用をAIdea Suiteで検討・導入するケースも増加しており、営業における間口の拡大や、段階的なAI導入を支援するスキームとしても機能している。ネオス社内でも活用が進んでおり、社員からのフィードバックを受けながらユーザー視点でのブラッシュアップが重ねられていた。

AIは日進月歩で進化していく。これに応じたスピーディーな研究開発を可能にしているのが、ネオスの技術開発チームである。東京、札幌、ベトナムと国内外で多様な人材が活躍しており、新たな開発手法やテクノロジーの研究がさまざまな事業に還元されている。
とりわけ近年、AIは開発の現場そのものにも大きな恩恵をもたらし始めている。開発工程の効率化やミスの削減、スピードアップが現実のものとなってきた。その結果として、社会に有益なサービスをいち早く届けるという、本質的な価値創出のスピードが飛躍的に向上している。課題に対して迅速にアプローチし、改善サイクルを短縮できることは、ユーザーにとっても大きなメリットだ。これからの時代、いかに早く価値を届けられるかがビジネスの競争力において鍵を握る。AI技術の革新が、開発現場に、そしてサービスそのものに、これまでにないスピードと可能性をもたらしている。あらゆるビジネスや業務システム、そして企業活動の隅々にまで、新たな価値を提供できる時代が到来したのだ。AI事業の長い道のりで蒔いてきた種が、いま本格的に花開こうとしている。