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NODE ep.5 2021-2023

第5章 新生aiwaの誕生

パンデミックの混乱が続くなか、社会では経済を正常化させるための動きが少しずつ進んでいきました。デバイス事業においても復調の兆しが見えてきたなか、JENESISは自社ブランド「aiwa」の立ち上げを発表。さらに子会社アイワマーケティングジャパンを設立し、本格的な自社事業へのチャレンジが始まります。

NODE ep.5 第5章 新生aiwaの誕生

デバイス事業の再始動

「新しい生活様式」。2020年の秋以降、新型コロナウイルスとの共存を前提とした社会のあり方がこう呼ばれるようになった。経済活動の維持と感染対策の両立が求められるなか、オンラインを活用したワークスタイルなどは引き続き推奨され、世界全体でDXはさらに進展していくことになる。

この流れの中で、JENESISにも新たな開発案件の問い合わせが相次いだ。5Gによる通信の高速化とコスト低減、IoTの普及、DXの進展などにより、多くの企業が新たなデバイス開発に積極的であった。しかし、量産段階に入るとその勢いは一転し、慎重な日本企業は意思決定が重くなる。コロナ禍の不透明な経済環境も相まって、受注状況は決して安定しているとは言えなかった。そうしたなか、代表の藤岡は一つの決断を下す——自社ブランドの立ち上げである。
JENESISは長年、ODM企業として多くのプロダクト開発を手掛けてきた。しかし、受託開発に依存した事業構造では、市場環境に左右されやすい。実際、コロナ禍でクライアントからの受注が激減し、デバイス事業は大きな打撃を受けた。この経験を踏まえ、自社ブランドの確立こそが、業績の安定化と新たな成長の鍵を握ると判断し、JENESISは黒子からメーカーとしての道を歩み始めることとなる。

機は熟した

JENESISではもともと、法人向けタブレットなどの自社製品を一部ルートで展開していたが、大手メーカーがひしめく中でシェアを獲得することの難しさを痛感していた。しかし、時代とともに中国のメーカーが参入、破竹の勢いでシェアを伸ばしていき、市場構造は一変する。勝因は価格の安さ。Android OSの登場やクラウド技術の発展により、デバイスに実装する機能はシンプルなもので事足りるようになった。世界最高峰のサプライチェーンをもつ中国において、必要最低限の機能を持たせたデバイスを安価に生産するという戦略が着実に実を結んでいたのである。
中国に自社工場をもつJENESISにとって、この戦略はすぐに実行可能であった。しかし、既に中国メーカーが席巻している市場に後発で参入するには、価格以外の競争優位性はもとより、ブランドとして認知されるまでに投資体力が尽きる恐れもあった。そこで注目したのが、既存ブランドとの提携である。JENESISは中国の生産拠点に加え、国内にカスタマーサポート拠点を有しており、日本企業の厳しい品質基準にも対応してきた。中国での生産と日本型の品質管理、これに知名度のあるブランドを掛け合わせることにより、安価かつ日本品質を担保したJENESISならではの製品で市場に打って出ることを決めた。

ブランド選定にあたり、いくつかの候補をピックアップする中で浮上したのが、かつてオーディオ製品メーカーとして名を馳せた「aiwa」である。日本で初めてラジカセを発売し、ヘッドフォンステレオ「カセットボーイ」を筆頭に国内外で数々の人気製品を生み出してきたが、デジタル化の波に乗り切れず、2008年にはブランド使用の一時停止に至っていた。「aiwa」は40代以上の購買力を持つ層を中心に親しまれ、世界的にも認知がある。「これをJENESISの開発力と掛け合わせれば、新たな市場を切り開けるのではないか」。藤岡は確信を持ち始めていた。ちょうどその頃、アイワ株式会社との接点を持つルートが見つかり、話は一気に進展していく。某日、アイワの社長と会食の場を設け、JENESISの挑戦をかけた議論が交わされた。同席する役員が緊張のあまりテーブルにお酒をひっくり返し、酒浸しになるというハプニングもあった。しかし、その熱のこもった想いがアイワの決断を後押しし、新生aiwa誕生のシナリオが動き始めることとなる。

2022年6月、JENESISはデジタル分野におけるaiwaの商標使用権を取得。8月には、スマートフォン、スマートウォッチ、Windows PCを含むタブレットを第1弾ラインアップとして発表した。記者発表会では、かつての名ブランド「aiwa」の復活に関心を寄せる多くのメディア関係者が詰めかけ、会場は満席。令和における“aiwa再始動”への期待に加え、JENESISが描く新たなビジョンと、自社の開発力を武器とした製品展開は大きな注目を集めたのであった。さらに翌年の2023年には、デジタルに限らずあらゆる分野でaiwaブランドを展開するためのライセンス契約を締結すると同時に、アイワと共同で「アイワマーケティングジャパン」を設立。JENESISは受託開発一本の体制から脱却し、本格的に新たな挑戦へと踏み出したのである。それは、単なるブランド展開ではなく、自社の技術力と市場戦略を融合させた、未来へ向けた大きな一歩であった。

新事業体制の確立

アイワマーケティングジャパンが市場調査と営業チームとして機動し、JENESISが製品開発を担う。どちらの代表も藤岡が担っており、チーム編成はシンプルである。トップが一本化されていることで、営業チームからのフィードバックは即座に開発へと反映され、試作機のブラッシュアップも驚くほどの速さで進む。まるでスタートアップのような機動力を持つ組織が、瞬く間に形作られていった。小ロットでの開発も強みであり、テストマーケティング的な市場投入も可能である。数か月~半年もあれば、0から新製品を企画開発・投入できる体制が整った。JENESISがこれまで培ってきたODM事業のノウハウと、アイワマーケティングジャパンの営業力が見事に融合した瞬間だった。
販売フェーズにおいても、想定通り「aiwa」のブランド力が大きな武器となる。ブランドの名前を挙げれば、「あのaiwaですか」とスムーズに話が進むことも多かった。新規参入メーカーでありながら、既に市場にはブランドの記憶が刻まれている。その認知度が追い風となり、法人への導入は順調に進んだ。ほどなくして家電量販店にもaiwa製品コーナーが設けられるようになり、令和の時代に復活した「aiwa」の名前は市場に浸透していった。現在は、受託のODMと自社製品のaiwaが2軸としてデバイス事業の骨子となりつつある。

自社ブランドの立ち上げは、JENESISにとって大きな挑戦であり、これまでの歩みにおける明確な節目となった。国内外の拠点を活かしたODM事業に加え、自ら製品を世に送り出すメーカーとしての道を進み始めたことで、事業の軸はより力強く、多様なものとなった。今、JENESISはただの受託メーカーではない。国内随一のIoTデバイスメーカーとして確かな足場を確立しつつある。

※ 国立科学博物館「産業技術史資料データベース」より
https://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?no=104810541015&c=&y1=&y2=&id=&pref=&city=&org=&word=TPR-101&p=2