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NODE ep.3 2012-2017

第3章 混沌と模索

2012年、東証一部に上場してからの船出は七難八苦でした。ガラケーのマーケットは縮小の一途を辿る一方、スマホは着実に普及し、新たな時代に向けたビジネスシフトを余儀なくされます。ネオスはあらゆる可能性を模索するも、2014年頃からの数年間は苦境を強いられました。しかし、そのなかでも試行錯誤を繰り返し着実に基盤を固め、新たなビジネスの種を蒔いていきました。こうした苦労が実り、少しずつ光明が見え始めます。

NODE ep.3 第3章 混沌と模索

スマホ対応を迫られるビジネス

2012年前後、世界は急速にスマートフォンの時代へと移行していた。ハードウェアの機能進化も目覚ましく、処理速度の向上、非接触技術やBluetooth機能の高度化、高精細カメラの搭載などがその代表例である。OSも改良を重ね、よりリッチでレスポンスの良いプラットフォームへと進化していった。2013年には4Gが本格的に普及し、いよいよモバイルネットワークは高速化の時代へ突入していくことになる。スマホは単なる通信端末ではなく、生活を支えるインフラへと変貌しつつあった。

この時代、多くの企業がオンラインサービスのスマホ対応に舵を切った。例えば金融業界。日本初のオンライン専業銀行であるPayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)は2000年にサービスを開始したが、当時のIT活用はあくまで「窓口対応の補完」という位置づけであった。しかし、スマホの進展とともにネットバンクとしての本格的な整備を進め、メガバンクもこれに続き、「銀行は支店に行くもの」から「スマホの中にあるもの」へと変わっていった。
オンラインストアの動きも顕著であった。2000年に日本市場へ参入したAmazonは、2007年に会員制のサブスクリプションサービス「Amazonプライム」を通じてスマホ向けコンテンツの提供を開始。そして2011年には、日本国内でAWS(Amazon Web Services)の提供を開始し、クラウド技術の普及が一気に加速した。AWSの登場は、スマホとクラウドを活用したサービス開発を飛躍的に進化させ、オンラインビジネスの可能性を大きく広げることとなる。
この技術革新はネオスにとっても追い風となった。サーバー運用に関する知見と豊富な実績はあったが、従来の自社運用型サーバーは膨大なコストや運用停止リスクを伴い、拡張性にも限界があった。AWSの登場によりこれらの課題が一気に解消され、クラウドを活用したオンラインサービス開発へのニーズが急拡大していったのである。

苦難を糧に

こうした背景の下、ネオスは新たな事業基盤を確立すべく、通信キャリアや一般法人向けのサービス開発受託を本格化。2011年に設立した札幌の開発拠点を中心に、新しいデバイスや技術トレンドへの対応といった、スマホ時代のビジネスシフトを見据えた開発体制を整えていった。
一方で、もともと自社開発中心のサービスプロバイダーとして成長してきたため、受託案件における緻密なプロジェクト管理やクライアントとの交渉といったディレクション領域においては、経験やノウハウが不足していた。上場企業としての信用力から受注こそ順調であったが、案件の規模が大きくなるにつれて進行に支障が生じ始める。クライアント側もオンラインサービス開発の経験が浅く、要件定義の難航や仕様変更が重なるケースも頻発。軌道修正が効かないままにプロジェクトが進んでいき、業績を揺るがす炎上に発展する案件も相次いだ。火消しに追われる事態が続き、2014年から数年赤字に陥ることとなる。

創業来、右肩上がりに成長してきたネオスにとって、この数年は未曾有となる厳しい局面であった。しかし、だからこそ単なる失敗として終わらせるのではなく、組織の成長機会と捉え経営陣は決断を下した。まずは火消し的な対応から脱却すべく、人材の育成や再配置、体制強化といったプロジェクトマネジメントの抜本的な見直しに着手。また、クライアントとの関係性においても、フェーズごとの合意形成やプロセスを整備するなどの仕組みづくりに注力した。最も困難だったのは、既に炎上状態にあったプロジェクトを途中で放棄せず、粘り強く完遂するという判断だった。当然ながら時間もコストもかかったが、その過程で示した実直な姿勢で信頼を勝ち得たクライアントとは現在も取引が続いている。そして、この一連の苦い経験を糧として、新たに得たプロジェクト運営やリスク管理のノウハウを、事業全体を支える力へと昇華していった。

暗中模索

同じ頃、コンテンツ事業においてもスマホ市場への参入が進められていたが、こちらも順風満帆とはいかなかった。既に国内における新規携帯販売数の約半数をスマホが占めていたが、豊富なコンテンツと使い慣れたUIを備えたガラケーには根強いニーズがあり、スマホ向けサービスやコンテンツを投入するも低迷する状況が続く。とはいえ、従来のガラケー向けサービスもユーザー数は減少の一途、まさに暗中模索の状況であった。

その中で転機となったのは、LINEの台頭である。総務省の調査によれば、2013年には20代の80%がLINEを利用しており、前年の49%から大幅に増加。これに伴いLINE上のマーケットも急拡大していた。ガラケー時代にコンテンツプロバイダーとして培った経験があるネオスにとって、このチャンスを逃す手はない。競合に先駆けてキャラクターの版元と交渉を進め、2013年3月に「水森亜土」のスタンプをリリース。これが大ヒットし、ランキング上位に入るなどシェアを獲得。スマホ業界を牽引するLINEは株式市場でも注目されていたことから、ネオスの株価も急騰し、「LINE銘柄」として認知されるようになった。

ジャイロセンサーをはじめ、スマホの技術的進化によりコンテンツの自由度が上がっていくと、マーケットには次々とユニークなアプリケーションが登場し、スマホ市場はますます拡大。中でも2012年にリリースされた「パズル&ドラゴン(通称パズドラ)」の世界的なヒットは、スマホが「電話」から「ゲーム機」へと進化したことを示していた。こうした動きのなか、ネオスもいくつかのゲームアプリ開発に挑戦したが、スマホゲーム市場は膨大な広告費や新作投入を繰り返す消耗戦の様相を帯びていた。爆発的なヒットを生み出さない限り生き残りは難しく、財務体力などに鑑みてこの事業からは一度早々に撤退している。
しかし、拡大するアプリマーケットでのビジネスを諦めたわけではなかった。2013年にキッズアプリ事業へと参入し、ドコモのキッズサービス「dキッズ」向けのアプリを開発。この分野は、キャラクターとの相性が良い上、競争が激しいゲーム市場とは異なり、知育・教育といった長期的な視点での事業成長の余地があると判断し、スマホ世代の子どもたちに向けた新たな価値提供に挑んだのである。そしてこの選択は、後の事業展開における重要な節目となる。ガラケー時代から一貫してキャラクターコンテンツを提供してきたノウハウや、版元とのネットワーク力を発揮し、ネオスのキッズアプリは「dキッズ」内で大きなシェアを獲得。これをベースとした自社アプリのマーケット投入や、子ども向け商品・イベントとのタイアップなどの展開も拡大し、キッズ事業はコンシューマ向けビジネスの柱の一つとして成長していった。
スマホ市場への変遷のなかで低迷していたコンテンツ事業は、LINEやパズドラといった新たなサービスの登場により拡大する市場を捉え、基盤を着実に固めつつあった。

端境期を越えて

2017年前後には、受託事業のプロジェクト運営も安定し、大規模案件にも高品質で対応できる体制が整った。加えて、優れた外注業者とのネットワークも強化され、外部と内部の力を融合させることで多様な受託案件をこなせるようになっていた。自社事業のノウハウがあることでサービス企画などの上流段階から提案できる点も強みとなり、企画から運用まで一気通貫で対応する案件も増加。メディカルや生保、航空、メディアなど業界問わず案件が舞い込み、低迷していた業績も上昇に転じ始めていた。

この受託事業へのシフトは、自社事業にも新たな活路をもたらした。多様なクライアントの案件を手掛ける中で得た、技術開発力や業界知見を自社事業に還元することにより、法人向けの新たな自社サービス基盤が生まれていったのである。自然言語処理やディープラーニングといったAI技術を活用したチャットボット、ウェアラブルデバイスを活用したヘルスケアサービスなど、当時としては先進的なサービスを次々と立ち上げた。これらのサービスは、後にネオスの自社事業の中核を担うものとなる。スマホ登場による端境期を経て、新たな時代に対応した基盤が着実に築かれつつあった。